この記事の執筆者 森川 髙司(もりかわ たかし)|医療法人煌仁会 森川内科クリニック 理事長・院長
内科医。奈良県立医科大学卒業後、呼吸器・消化器・腎臓・糖尿病などの内科診療に従事し、平成28年に尼崎・塚口で開業。睡眠時無呼吸症候群(SAS)の検査・診断からCPAP療法の継続管理、高血圧・糖尿病など合併症の一括管理まで一貫して行う地域のかかりつけ医。
「いびきはかくけど、昼間は元気だから大丈夫」——そう思って放置している方にこそ、読んでいただきたい記事です。睡眠時無呼吸症候群(SAS)の本当の怖さは、眠気ではありません。気づかないうちに、毎晩、心臓と血管に負担をかけ続けることです。この記事では、放置した場合に体の中で何が起きるのか、高血圧・糖尿病・心疾患とのつながりを、実際の診療で経験した症例の解説とともにお話しします。
結論:要点は3つです
• 無呼吸のたびに体は酸素不足になり、それを補おうと心拍と血圧が上がります。この負担が毎晩、何十回も繰り返されるのが放置の実態です。
• SASは高血圧・糖尿病・不整脈などの生活習慣病と互いに悪化させ合う関係にあり、「薬を飲んでいるのに血圧が安定しない」背景に隠れていることがあります。
• SASは治療でコントロールできる病気です。放置との違いは、検査を受けるかどうかだけです。
放置している間、体の中では何が起きているの?
結論:眠っているはずの体が、毎晩「窒息と覚醒」を繰り返しています。無呼吸で呼吸が止まると、血液中の酸素が下がります。体は酸素不足を補うために心拍数を上げ、血圧を上げ、脳を覚醒させて呼吸を再開させます。ご本人に目が覚めた記憶はなくても、脳と心臓は一晩中たたき起こされ続けているのです。
この状態が続くと、本来は休まるはずの睡眠中も交感神経(体を緊張させる神経)が働きっぱなしになります。夜間も血圧が下がらない、朝から血圧が高い——そんな体質が、静かに作られていきます。
【症例解説】高血圧の治療中に、SASが見つかった患者さん
実際の診療で経験した経過を、個人が特定されない形でご紹介します(属性は一般化しています)。
高血圧で当院に通院されていた中年の患者さんです。降圧薬による治療を続けていましたが、血圧の数値が思うように安定しない時期がありました。外来の問診で、ご家族から大きないびきと「寝ているとき息が止まっている」との指摘があることがわかり、自宅でできる簡易検査を実施したところ、中等症以上の睡眠時無呼吸症候群が見つかりました。
この経過から、内科医としてお伝えしたいことは2つあります。第一に、SASは高血圧の「隠れた併走者」になりうるということです。夜間の無呼吸が血圧を押し上げている場合、その要因に手を付けない限り、日中の血圧管理も難しくなることがあります。実際、SASを合併した高血圧は薬が効きにくい(治療抵抗性になりやすい)ことが報告されています。第二に、この患者さんのSASが見つかったきっかけは、特別な検査ではなく「外来でいびきを尋ねたこと」でした。私が高血圧や糖尿病の患者さんの問診で、必ず睡眠といびきについて伺うのはこのためです。
【表現上の注意】この症例解説には、患者の主観的な感想や「治療して血圧が下がった」等の効果の記述を意図的に含めていません(医療広告ガイドラインの体験談規制への配慮)。公開時もこの形式を維持してください。
高血圧とは、どうつながっているの?
結論:SASと高血圧は「双方向」の関係です。無呼吸による夜間の酸素不足と交感神経の緊張は血圧を押し上げ、高血圧は心臓・血管の負担をさらに増やします。SASのある方は高血圧を合併しやすく、逆に、降圧薬でコントロールしにくい高血圧の背景にSASが見つかることがあると報告されています。血圧が気になる方といびきのある方は、実は同じ検査(SASの検査)が役に立つ集団なのです。
糖尿病とも関係があるの?
結論:あります。睡眠が細切れになり交感神経の緊張が続くと、血糖を下げるインスリンの働きが悪くなる(インスリン抵抗性)方向に働くことが知られています。SASと2型糖尿病の合併は多く報告されており、血糖コントロールの改善を目指すうえでも、睡眠の質は無視できない要素です。当院は糖尿病の診療も行う内科として、血糖とSASを同じ外来で診られる体制をとっています。
心臓・血管の病気のリスクは?
結論:放置されたSASは、不整脈(特に心房細動)・狭心症や心筋梗塞などの心疾患・脳卒中との関連が報告されています。毎晩の酸素不足と血圧の乱高下が、長い年月をかけて心臓と血管を傷めていくためです。もちろん、SASがあれば必ずこれらの病気になるわけではありません。ただ、「防げたはずの負担を毎晩かけ続ける」ことのもったいなさは、内科医として強調しておきたい点です。
事故のリスクも「合併症」のひとつ
体の病気だけではありません。日中の強い眠気による居眠り運転や作業中の事故は、SASがもたらす最も直接的な危険です。ご自身だけでなく、周囲の人を巻き込む可能性がある点で、見過ごせないリスクです。
→ 詳しくは:日中の強い眠気と仕事・運転:睡眠時無呼吸症候群がもたらすリスクと対策(C10)
放置した場合と、治療した場合の違いは?
結論:SASは治療で無呼吸をコントロールできる病気です。中等症以上の標準治療であるCPAPを適切に使えば、その夜から無呼吸と酸素低下を抑えられます。夜間の負担が取り除かれることで、血圧など合併症の管理がしやすくなることも報告されています。放置と治療を分けるのは、難しい決断ではなく、自宅で1日できる検査を受けるかどうかです。
なお、2026年6月の保険基準の見直しで、以前は「治療の対象外」とされた中等症の方も治療に進みやすくなりました。過去に検査を受けて見送りになった方も、再評価の価値があります。
→ 検査の流れと2026年6月の新基準は:睡眠時無呼吸症候群の検査はどう受ける?(C2)/ 治療の内容は:CPAP療法とは?(C3)
当院の考え方:SASと生活習慣病は「まとめて診る」
当院の外来では、高血圧の患者さんの血圧手帳と、CPAPの遠隔モニタリングデータを、同じ机の上に並べて見ることがあります。夜の無呼吸の状態と日中の血圧は、別々の病気の話ではなく、ひとつの体の中でつながった話だからです。SASを診る内科であることの意味は、まさにここにあると考えています。高血圧・糖尿病で通院中の方のSAS検査、SASで通院中の方の生活習慣病管理、どちらもひとつの外来で完結します。
→ SASの全体像(症状・検査・治療・費用)はこちら:睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは?症状・検査・治療・費用のすべて(ピラー)
まとめ:「昼間は元気」は、安全の証明にはなりません
SASの負担は、自覚症状より先に、夜の体に積み重なっていきます。大きないびき、呼吸が止まっているという指摘、安定しない血圧——ひとつでも心当たりがあれば、それは検査を受けるのに十分な理由です。放置してきた年月は取り戻せませんが、今夜からの負担は減らせます。
森川内科クリニック(医療法人煌仁会) お電話:06-6439-7337 / 兵庫県尼崎市上坂部1丁目4の1 ミリオンタウン塚口2階(駐車場無料)/ JR塚口駅から徒歩3分 / 木・金は20時まで受付、土曜・日曜も診療 / 予約なし受診可・Web予約も承っています
よくあるご質問(FAQ)
Q1. いびきはかきますが、昼間は元気です。放置してもいいですか?
A. 「昼間の元気」は安全の証明にはなりません。無呼吸があっても眠気を自覚しない方は少なくなく、その間も夜間の酸素低下と血圧上昇は続いています。毎晩の大きないびきや呼吸停止の指摘があれば、症状がなくても一度検査をおすすめします。
Q2. 血圧の薬を飲んでいれば、SASは治療しなくても大丈夫ですか?
A. 薬とSAS治療は役割が別です。降圧薬は血圧を下げますが、夜間の無呼吸そのものは止められません。無呼吸が血圧を押し上げ続けている場合、薬だけでは管理が難しくなることがあります。血圧が安定しにくい方こそ、SASの検査を検討する価値があります。
Q3. SASを治療すると、血圧の薬は減らせますか?
A. 一概には言えません。CPAPで夜間の無呼吸が抑えられると血圧管理がしやすくなることは報告されていますが、薬を減らせるかどうかは血圧の経過を見たうえでの医学的判断になります。自己判断での減薬・中止は危険ですので、必ず外来でご相談ください。
Q4. 健康診断の血圧で引っかかりました。いびきも指摘されています。どちらを先に受診すべきですか?
A. 同時に相談できます。当院のような内科であれば、高血圧の診療とSASの検査を同じ外来で進められます。血圧といびきは別々の問題ではなく、つながっている可能性があるため、まとめて診てもらうのが近道です。
Q5. 家族が高血圧でいびきもひどいのですが、本人は「大丈夫」と言います。
A. ご家族からの情報は診断の大きな手がかりです。「いびきが急に止まって、大きな音で再開する」様子があれば、スマートフォンで録音してお持ちください。高血圧で通院中なら、次の外来で「いびきを指摘されている」と主治医に伝えるだけでも、検査への道が開けます。
参考・出典
SASと高血圧・糖尿病・心血管疾患の関連に関する記述
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020
高血圧治療ガイドライン