この記事の執筆者 森川 髙司(もりかわ たかし)|医療法人煌仁会 森川内科クリニック 理事長・院長
内科医。奈良県立医科大学卒業後、呼吸器・消化器・腎臓・糖尿病などの内科診療に従事し、平成28年に尼崎・塚口で開業。睡眠時無呼吸症候群(SAS)の検査・診断からCPAP療法の導入・毎月の継続管理、高血圧・糖尿病など合併症の一括管理まで一貫して行う地域のかかりつけ医。
「CPAPって、一生続けるんですか?」——CPAP治療を始める患者さんから、必ずと言っていいほど聞かれる質問です。この記事では、CPAP(シーパップ)とはどんな治療か、効果と費用、通院の頻度、そして外来で私が最も力を入れている「無理なく続けるためのコツ」まで、まとめて解説します。
結論:要点は3つです
• CPAPは、鼻のマスクから空気を送って睡眠中の気道のふさがりを防ぐ、中等症以上のSASの標準治療です。費用は3割負担で月4,500〜5,000円ほど(機器レンタル・毎月の管理を含む。2026年7月時点)。
• 通院は毎月。当院では遠隔モニタリングで送られてくる使用データを、外来でご一緒に確認しながら調整します。
• 最初につまずいても、やめる必要はありません。マスクの圧迫感や口の乾きには対処法があります。続けるためのサポートこそ、私たちの仕事です。
CPAPとは、どんな治療?
結論:睡眠中に空気の圧力で「気道のつっかえ棒」を作る治療です。CPAP(経鼻的持続陽圧呼吸療法)は、鼻に装着したマスクから一定の圧力をかけた空気を送り込み、眠っている間にゆるんでふさがろうとする空気の通り道(上気道)を、内側から広げて支えます。
薬で無呼吸を抑えるのでも、手術でのどの形を変えるのでもなく、「ふさがる瞬間を毎晩物理的に防ぐ」という発想の治療です。装着したその夜から無呼吸を抑えられるのが特徴で、中等症以上のSASに対する標準治療として世界中で使われています。
どんな効果が期待できるの?
結論:無呼吸といびきが抑えられ、睡眠の質の改善が期待できます。適切に使うことで、次のような変化が期待できます。
• 日中の強い眠気や倦怠感の軽減(睡眠が分断されなくなるため)。
• いびきの減少。同じ寝室のご家族の睡眠にも良い影響があります。
• 夜間の酸素不足がなくなることによる、心臓・血管への負担の軽減。高血圧など合併症の管理がしやすくなることが報告されています。
効果の感じ方には個人差があり、使用時間が短いと効果も限られます。だからこそ「続けられるかどうか」が、この治療の成否を分けます。
誰がCPAPの対象になるの?
結論:検査でのAHI(1時間あたりの無呼吸・低呼吸の回数)が基準を満たした方です。2026年6月の診療報酬改定で基準が引き下げられ、自宅の簡易検査でAHI(REI)30以上、または精密検査(PSG)でAHI15以上であれば、保険でCPAPを始められるようになりました。数値だけでなく、眠気などの症状や高血圧といった合併症も含めて総合的に判断します。
→ 検査の流れとAHIの見方は:睡眠時無呼吸症候群の検査はどう受ける?自宅でできる簡易検査とPSG検査の流れ・費用(C2)
費用は月いくら?機器は買うの?
結論:保険診療で、3割負担の方で月4,500〜5,000円ほどです(2026年7月時点)。機器は購入ではなくレンタルで、この月額に機器のレンタル料と毎月の診察・管理が含まれます。マスクやホースなどの消耗品の交換も、レンタルの範囲で対応されます。高額な初期費用はかかりません。
通院は毎月必要?遠隔モニタリングで何がわかるの?
結論:当院では毎月受診していただきます。CPAPの保険診療には定期的な受診が必要であることに加え、毎月お会いすること自体に治療上の意味があるからです。
いまのCPAP機器には通信機能があり、毎晩の使用時間・無呼吸の残り具合(AHI)・マスクからの空気漏れなどのデータが、遠隔モニタリングで当院に送られてきます。外来では、このデータを画面でご一緒に見ながら「先月より使用時間が伸びましたね」「この空気漏れはマスクのサイズが原因かもしれません」と、具体的な数字に基づいて調整します。
2026年6月の改定では、CPAPを「導入すること」だけでなく「適切に使い続けられているか」が今まで以上に重視される仕組みになりました。毎月データを確認しながら伴走する当院のスタイルは、まさにこの方向に沿ったものです。
最初につまずいたら?——外来で多い2つの悩みと対処法
結論:導入初期のつまずきには対処法があります。自己判断でやめる前に、必ずご相談ください。外来で実際に多いのは、次の2つです。
① マスクの圧迫感が気になって、外してしまう。導入して最初の外来で、いちばん多いご相談です。このとき私がお伝えしているのは、「最初から一晩中つけようとしなくていい」ということです。まずは眠り始めの数時間だけでもつけていただき、体を慣らしていく。数週間かけて装着時間が自然に伸びていく方がほとんどです。遠隔モニタリングで装着時間の変化が見えるので、「先月より2時間伸びましたね」と一緒に確認しながら進めます。マスクのサイズや種類の変更で解決することもあります。
② 口が乾く。空気を送り込む治療の性質上、起きたときの口や鼻の乾燥を訴える方は少なくありません。この場合は加湿器を使います。送る空気を加湿することで、乾燥はかなり軽減できます。寝室の環境(暖房による乾燥など)の調整も併せてご案内します。
大切なのは、つまずきを「自分が我慢できないせい」と思わないことです。マスクが合わない、設定が合わない——原因の多くは調整で解決できます。CPAPを無理なく続けていただくためのサポートこそ、私がSAS診療でいちばん大切にしていることです。
CPAPはいつまで続けるの?やめられる?
結論:やめられる場合はありますが、条件があります。CPAPは無呼吸の原因そのものを取り除く治療ではなく、「使っている間、気道を支える」治療です。使うのをやめれば、無呼吸は元に戻ります。ですから、基本的には継続して使う治療とお考えください。
ただし、道はあります。肥満が主な原因の方が減量に成功し、検査で無呼吸の回数(AHI)が十分に改善したことを確認できれば、CPAPからの離脱を検討します。実際、毎月の外来では体重の変化もデータと一緒に見ています。「CPAPで今の睡眠と体を守りながら、減量で卒業を目指す」——この二本立てが、離脱への現実的な道筋です。自己判断での中断だけは避けてください。
→ 減量でどこまで改善するかは:痩せたら睡眠時無呼吸症候群は治る?減量・生活習慣改善の効果と限界(C8)
すでに他院でCPAPを使っている方へ
「今の通院先が遠い」「平日昼間に通えない」という理由で治療が途切れそうな方は、転院という選択肢があります。紹介状(診療情報提供書)をお持ちいただければ、当院でCPAP管理を引き継げます。
→ 手続きの詳細は:CPAPの転院はできる?病院の変え方・データ引き継ぎの手順と注意点(C4)
まとめ:CPAPは「続けてこそ」の治療。続けるための伴走をします
CPAPは、装着したその夜から無呼吸を抑えられる確かな治療です。そして、その効果は続けた分だけ積み重なります。最初のつまずきはよくあることで、対処法があります。毎月の外来でデータを見ながら、あなたのペースに合わせて調整していきますので、一人で悩まずにご相談ください。
森川内科クリニック(医療法人煌仁会) お電話:06-6439-7337 / 兵庫県尼崎市上坂部1丁目4の1 ミリオンタウン塚口2階(駐車場無料)/ JR塚口駅から徒歩3分 / 木・金は20時まで受付、土曜・日曜も診療 / 予約なし受診可・Web予約も承っています
よくあるご質問(FAQ)
Q1. CPAPの機器は購入するのですか?
A. いいえ、保険診療ではレンタルです。月々の自己負担(3割負担で4,500〜5,000円ほど)に、機器のレンタル料と毎月の診察・管理が含まれます。マスクなどの消耗品の交換もレンタルの範囲で対応されるため、高額な初期費用はかかりません。
Q2. 毎晩使わないとだめですか?使用状況は先生に見られているのですか?
A. 効果は使った夜にだけ現れるため、毎晩の使用が理想です。使用時間などのデータは遠隔モニタリングで当院に送られており、毎月の外来でご一緒に確認します。監視ではなく、つまずきを早く見つけて調整するための仕組みですので、使えていない日があっても正直にご相談ください。
Q3. 機械の音がうるさくて家族に迷惑がかかりませんか?
A. 最近のCPAP機器は静音性が高く、動作音はごくわずかです。むしろ「大きないびきが消えて、家族がよく眠れるようになった」という声のほうが多く聞かれます。音が気になる場合は、マスクからの空気漏れが原因のことがあるため、外来でご相談ください。
Q4. 風邪で鼻が詰まっているときは、どうすればいいですか?
A. 無理に使う必要はありません。鼻づまりがひどい夜は一時的に中断し、治ってから再開してください。鼻炎が続いてCPAPが使いにくい場合は、点鼻薬などの治療や耳鼻咽喉科との連携で解決できることがあります。毎月の外来でお知らせください。
Q5. 出張や旅行には持っていけますか?
A. 持っていけます。最近の機器はコンパクトで、専用の持ち運びケースがあります。国内はもちろん、海外への持ち出しも可能です(航空機内への持ち込みや電源の規格など、準備のポイントがあります)。出張・旅行の予定が決まったら、外来でご相談ください。
Q6. CPAPをやめたら、無呼吸はどうなりますか?
A. 元に戻ります。CPAPは使っている間だけ気道を支える治療のため、中断すれば無呼吸といびきは再び現れます。やめることを考える前に、まず「なぜやめたいのか」(不快感・費用・効果を感じないなど)を外来で聞かせてください。原因の多くは調整で解決できます。
参考・出典
令和8年度診療報酬改定について
